消費社会 その6
シーニュはポジティブ(実定的)だとはいっても、それはラングという構造のなかにおかれて初めてポジティブな価値を持つ。

このことを理解するには、次のような例を考えてみると良い。
茶の湯で使われる茶碗に井戸茶碗というものがある。井戸茶碗とは、もともと朝鮮半島で庶民が食事に使った安物の生活雑器だが、茶人達に珍重され茶碗の最高峰と言われるまでになったものだ。言ってみれば百円均一ショップに山積みになっている茶碗が、他所の国で国宝になってしまったようなものだ。この価値のギャップをどのように考えればいいのか。朝鮮半島の人々が良い茶碗を作る腕を持ちながら、見る目がなかったと考えるべきなのか(日本の浮世絵についてそういった見方をする人もいるのではないか)、あるいは、もともと価値なんかないもの金の使い道を知らない物好きたちが値を吊り上げただけなのか。
どちらも違う。井戸茶碗の価値は、それが他の茶碗、他の茶道具などとともに茶の湯という体系の中に位置づけられたことで初めて定まったのだ。それは単に素朴な味わいがあるから価値があるというのではなく、天目茶碗や楽茶碗などとは違う味わいがあるところに価値がある。
忘れてならないのは、楽茶碗の方の価値も、井戸とは異なる味わいがあるところにあるのであって、つまり価値は絶対的な基準によって決まるのではなく、お互いがそれぞれの価値を定める基準となる相対的なものだということだ。茶碗の価値は、物理的な存在としてのそれを特徴付ける要素によって決まるのではない。井戸茶碗の場合は大きいほうがより価値が高いとされるし、そもそも穴があってお茶が漏ってしまうようでは茶碗としての価値はゼロだが、それであっても価値はそこから生じてくるものではない。お茶が入る、あるいは飯がたっぷり入る、持ちやすい大きさで頑丈で・・・茶の湯の茶碗の価値は明らかにそういった使用価値を越えている。
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by tyogonou | 2009-06-25 23:04 | 消費社会 | Trackback(1) | Comments(0)
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