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松本零士さんと槇原さんが和解=「歌詞盗用」名誉棄損訴訟-東京高裁(時事通信) - Yahoo!ニュース
松本零士さんと槇原さんが和解=「歌詞盗用」名誉棄損訴訟-東京高裁(時事通信) - Yahoo!ニュース
ベートーヴェンに交響曲第三番「エロイカ(英雄)」という有名な作品がある。曲自体は聴いたことがなくても、ベートーヴェンがナポレオンを称えるために作曲し、それを明記するつもりでいたが、ナポレオンが皇帝になったことに激怒してそれをやめたというエピソードを聞いたことがあるという人は少なくないだろう。だが、この曲の第一楽章の第一主題がモーツァルトがわずか12歳で書いたオペラの序曲の主題の「盗用」であることを知っている人はそれほど多くないかもしれない。





もちろん、楽聖ベートーヴェンが盗作したなどと非難されることはない。
共通するのはごく短いシンプルなメロディーで、それをいかに展開するかにモーツァルトとベートーベンの個性の大きな差が出ているわけだし(12歳にして既にモーツァルトらしさが発揮されていることにも驚く)、英雄を称える大交響曲の主題を、幼い恋人二人が喧嘩して仲直りするだけというたわいのない筋の、子どもが学芸会のような形で演奏するような小歌劇の序曲からもってくるというのもちょっと妙な話だということもあるだろう。
だが、素直に(そして好意的に)解釈すれば、ベートーヴェンは幼少期にこの歌劇に接していたが、その事実を覚えていないままこのメロディーが頭の中に刷り込まれていたのではないかと推測できるわけで、それは意識的な「盗作」ではないだろうと考えるべきなのだろう。

裁判所が盗用ではないと判断を下したものをあれこれ言うのも穏当ではないが、この999訴訟もそういうことなのではないかと私は思った。
『999』はマンガというよりアニメや映画で広く親しまれたもので、私も、大体のストーリーやスリーナインが地球を離れるシーンなどは確かに鮮明な記憶があるが、すべてを覚えているとはとてもいえない。私がなにかSF小説のようなものを書いた時、それが999が立ち寄った星の設定と同じものになる可能性はやはりあると思う。「時間は夢を裏切らない。夢も時間を裏切ってはならない」という台詞は、『999』についての私の記憶にも全くないが、時間と夢という組み合わせ、そして互いに「裏切る(裏切らない)」という関係にありながら片方が人間ではないというのもありそうであまり無い思考だから、やはり映像化された作品の中にもちゃんと出てきていて、それが無意識のうちに槇原敬之氏の頭の中にも入り込んでいたのではないかとも思われるのだ。

少し前に、古書店で『999』のマンガを見つけて立ち読みしてみたのだが、読んでみると松本零士氏の怒りも確かに分かる。この台詞が非常に重要でメーテルと鉄郎との関係にも重なってくるものだと知って正直驚いたし、この作品の設定や世界観を大人になった今きちんと把握して読んでみようかという気にもなった。
もっとも、その世界観が論理的に完結した完成度の高いものであるかどうか疑問を感じたのも事実で、そのあたりが、少年が機械の体を求めて謎の美女と銀河鉄道に乗って旅をするいう設定以上のものを子供達の心に残さなかった理由であるかもしれない。
松本零士氏が理解すべきなのはこの作品がいかに大きな影響力をもっていたか、ということではないかと思う。作者が作品にどういったものを詰め込んだにせよ、読者がそれを全く意識することのないまま血肉としてしまうことは幼い子供たちを対象とした作品には良くあることではないか。まして大変な人気を得た作品であれば、深く理解しようというつもりはなく、気軽に楽しむカジュアルなファン層が膨大になる。そういった人びとが、『999』の中の台詞をそれと意識して記憶しているということはあまりないだろう。
あるいは、ガンダム以降のアニメであれば、オタクたちがその世界観を再発見し、再構築し、発信するということもあったかもしれないのだが。

ニュースを横目で眺めているかぎり、どうも両者共に損したような騒動のようだったが、もっと良い形で終われたのではないかと思うと少し残念だ。
by tyogonou | 2009-11-28 23:27 | 社会
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