紀子さま御懐妊
「紀子さまご懐妊の兆候」ということでまずはおめでたい。
ただ、これから日本列島を覆うであろう複雑な感情の靄と、この新しい命に向けられる身勝手な思惑を思うと少々酸っぱさを含んだ喜びではある。
世間では男子が生まれると大層めでたがり、女の子でも無病なればまずまずめでたいなんて、おのずから軽重があるようだが、コンナ馬鹿げたことはない。娘の子なれば何が悪いか、私は九人の子がみんな娘だって少しも残念とは思わぬ。ただ今日では男の子が四人、女の子が五人、宣(い)い塩梅に振り分けになってると思うばかり、男女長少、腹の底からこれを愛して兎の毛ほども分け隔てはない。道徳学者は動(やや)もすると世界中の人を相手にして一視同仁なんて大きなことを言ってるではないか。まして自分の生んだ子どもの取り扱いに、一視同仁ができぬというような浅ましいことがあるものか。
こう断じたのは福沢諭吉であるが、一世紀をまたいだ今日、下々の一般家庭で
こそやかましくなくなってきたとは言え、一人の赤子の性別が国民的関心事となるようでは福沢が嘆いた頃からたいした進歩を遂げていないというべきだろうか。
それはともかくとして皇室典範改正問題である。小泉首相は議論の継続が必要だという認識のようだが、その認識は正しいと思う。正直に言えば、今回の吉報によって多くの国民が感じたであろう安堵感―愛子様以外の「選択肢」ができたかもしれないということ、そしてその結果あまり愉快でない議論を先延ばしにできるかもしれないという安堵感ーを私も感じたことは事実だ。しかし、ここで逃げてしまうのは卑怯ではある。
私は、三笠宮寛仁親王殿下の「一度切れた歴史はつなげない」という主張に一定の理解をもっている。長い間伝えられてきたものを断ち切るというのは大変なことだ。今女系天皇を容認したら、百年後、二百年後にやはり元に戻そうということになってもそれは容易なことではないわけで、当座の苦境を乗り切るだけのために軽々しく変更してはならないものだと思う。
ただし、他方では、国民の象徴という存在が、性によって差別することを許さない現代の人権文化の名誉ある一員たろうとする民主主義国家日本のありようと矛盾するようであってはならないと思ってもいる。
私の考えは次のようなものだ。皇位の継承をはじめ、皇室のありようについては皇室関係者自身に決めさせるが良い。日本国(国民)はそこに口を挟むことをしない代わりに日本国と皇室とを切り離してしまうべきだ。具体的に言えば皇室を特別文化財のようなものに指定したうえで一切の国事行為を廃止するのだ。古典芸能などでは男性のみが受け継ぐものは少なくないわけで、そういったものの一種として扱うなら天皇を男系男子に限るということは許容されうる。だが、「男系だから尊い」というような価値観が日本の国民を象徴するものであってはならない。なぜならそれでは天皇制とは日本国民の(福沢の言うところの)「浅ましさ」の表現となってしまうからだ。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
天皇が「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」であるなら、この第十四条を体現するような存在でなければならない。男系男子による継承を貫徹するなら、それは許容されるべき例外としてでしかなされえないと思う。

もっとも天皇制をめぐる議論がそこまでいくことはないだろう。もっと現実的で形而下的な問題に終始することになるだろうが、果たしてこの価値観の問題煮まで踏み込む時期にあるのかどうかは私自身も判断に迷うところではある。
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by tyogonou | 2006-02-09 01:57 | 社会 | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from ◆木偶の妄言◆ at 2006-02-09 03:29
タイトル : 1億総小姑
紀子さんが妊娠したそうだ(記事)。 何にしろ、誰かに子どもが生まれるというのはおめでたい話なのだが、単純におめでとうといえない昨今の情勢。女系天皇に反対する人たちは、「まずは紀子さま第3子ご誕生まで待つべき」とか言うんだろうなぁ。 で、誕生を待ってみて「待望の」男の子が生まれれば良い。でも、女の子だったらどうするんだろう。「残念ながら女児でした」「待ち望んだ男児ではありませんでした」とか言う輩がいるのだろうなぁ。まるで、「世継ぎ」が欲しい大店の小姑のように。多くの人間に誕生の瞬間、「残念だ...... more
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