目指すのは推定無罪の原則と守秘義務のない裁判か
「弁護士会はバカ」 橋下弁護士会見でケンカ売る | エキサイトニュース
橋下弁護士は「業界の笑いもの」なのか? | エキサイトニュース
「刑事事件で加害者を弁護するのですから、弁護士に反感を持たれるというのは当然あると思います。弁護士に対する『批判』にとどまるならばならしょうがないというのはありますが、『懲戒請求』は刑事事件で言えば、告訴・告発に当たるものです。だから、数の問題ではないし、しかも報道を根拠にして、署名活動のように懲戒請求することを扇動することは理解に苦しみます」
橋下弁護士を提訴した弁護士の広報担当の説明が簡明で要を得ている。弁護団を批判するのは理解できる。さらに自ら懲戒請求するならそれも理解できる。だが、
「懲戒請求を一万二万とか十万人とか、この番組見てる人が、一斉に弁護士会に行って懲戒請求かけてくださったらですね、弁護士会のほうとしても処分出さないわけにはいかないですよ」
などと扇動することを、正当化できるとはとても思えない。
橋下弁護士もこの点(年1500件程度しか行われない懲戒請求を「十万」もやれと煽った理由とその是非)についてはほとんど説明せず、被告側弁護団の行動を激しく批判することで話をそらしている。
懲戒請求は橋下弁護士が一件起こせばよく、その正否は弁護士会が所定の手続きを経て判断するもので、数が集まることはその請求の正しさを示すものでも何でもない。
自分自身が請求を行わなかったことについて、「時間と労力を省いた。自分でやらなくても(TVを見た視聴者がやればいいと思った)」などという無責任な言い訳しかできないのなら、悪人が相手なら何をやってもいいというようなノリでしかなかったのだろうと考えざるをえない。
「番組を通じて、法律家として責任をもって発言したことなので、違法性が無いものだという確信を持っている」という程度のことで説明が充分であるというなら、同じ基準を被告側弁護団にも適用すべきだ。

業界外部の素人である私の目から見ても、橋下弁護士は裁判や弁護士の役割をちゃんと理解しているのか疑問に思う。
なぜそのような新たな主張をすることになったのか、裁判制度に対する国民の信頼を失墜させないためにも、被害者や国民にきちんと説明する形で弁護活動をすべきだ。
その必要は全くない。
証明責任のある検察側が主張を変えたなら、変更について合理的な説明が出来なければそのこと自体が起訴事実への疑いとなってしまうが、合理的な疑いを示すだけでよい弁護側に主張の一貫性を要求する倫理などない。
また弁護士は被害者のためでも国民のためでもなく、被告のためのみに働くのであって、被害者や国民に対する義務を負っているわけではない。(裁判は裁判官の指揮下で行われるものであるから、新しい主張が正統な手続きの範囲内であることを裁判官に対して説明しなければならないことはあるだろうが。)これは、守秘義務との関係で重要である。おそらく、弁護士が職務上知った秘密を漏らさないことと、弁護活動について説明することは関係なく容易に両立するという反論があるだろう。しかしこれはきわめて素朴な議論だ。
問題は、秘密を知った後ではなく、秘密を知りうるかどうかということである。すなわち弁護士が被告の利益以外に国民の関心などにも責任を負わなければならないとなると、被告が弁護士に対して秘密を打ち明けることができなくなりはしないか、ということだ。ことは人を殺したか否かなどという最高度にデリケートな問題であって、相手が自分の弁護を担当するからというだけで、秘密をペラペラ話すようなことにはならない。そのためには相手を人間的に信頼できることも必要だが、相手が自分のためだけに働くことが制度上保障されていることが重要だ。
さらに、裁判においても強制されない説明を国民に対してせよと要求することは、いわば裁判所でなくマスメディアの場で裁判を行えと言うに等しく、裁判所の存在意義さえ危うくする。
その点の説明をすっ飛ばして、新たな主張を展開し、裁判制度によって被害者をいたずらに振り回し、国民に弁護士というのはこんなふざけた主張をするものなんだと印象付けた今回の弁護団の弁護活動は完全に懲戒事由にあたる、というのが僕の主張の骨子です」
そもそも裁判は一定の手続きの下、高度な知識をもつ専門家たちが厳格なルールに則って行うものだ。メディアを通じて流された不完全な情報を基礎として、無責任な視聴者が心証で被告を断罪していいものではない。進行中のこの裁判において、弁護団の主張がただ「被害者をいたずらに振り回すだけ」のものなのか、それともちゃんと真面目な意図と合理的な根拠のあるものなのかは審理が進まなければ判明するはずもない。懲戒請求はその後に行っても良く、むしろ裁判において「ふざけた主張」と判断された(もしそう判断されれば)という事実こそが、請求の根拠となる。それを弁護団の見解が発表されるとすぐにこういったアジテーションをして弁護団の業務に支障がでるほど大量の懲戒請求をおこさせるのは、裁判自体の妨害でなくてなんであろう。

「(弁護士は)免許業であるにもかかわらず国の監督権限を受けない。この言いわけのために『懲戒請求』の制度がある。いわば『弁明の具』だった」
弁護士を国の管理下に置けということなのか? 検察官は旗色が悪くなったら弁護人のところにいって「弁護士を続けたかったら・・・」と耳打ちできるようにしろということか。

「懲戒請求者である3,900人には損害賠償しない。これをやったら、弁護士は終わり。懲戒請求を煽ったということで僕を相手に賠償請求するのは(この訴訟の原告の)良識かなと思う。そうきた以上は僕も真正面からぶつかっていく必要があるのかなと思う」
格好いいところを見せたいがためのコメントだろうが、これもちょっとおかしい。3,900人は、唆されたとはいっても、自分の行動に責任をもてないわけではない。逆に被害者的な面もあるからという理由で賠償請求の対象から外すのは、相手を責任をもてる人間として扱わないということでもある。「裁判を受ける権利」という観点からすればそういうことにもなる。そこまで細かく考えるのも現実的ではないが、すくなくとも「弁護士は終わり」などということはない。

被害者の利益を守るために検察官という職が存在していることを知らないのではないか、そう疑いたくなるほどに、橋下弁護士は検察の役割を無視し、それを弁護士に押し付けようとしているように思われる。
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by tyogonou | 2007-09-07 01:19 | 社会 | Trackback | Comments(0)
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